死闘の末には紅茶アリ?
2001年12月11日ひゅっ
首筋に殺気を感じ咄嗟に背後に飛びのく
先ほどいた場所の椅子が音もなく崩れる
安心する間もなく頭上から小さな音が落ちてくる
先程の要領で次は左に飛ぶ
ただし、飛びながら今居た場所を右一本で刀を通過させながらだ
チッ
何かが掠る感触
しかし存外に硬い
ナイフか・・・そう心に思いつつソファーの後ろに身を潜める
この状況下では息を崩す事は命取りになるだろう
ましてや相手が自分よりも数段上の実力を持っているならばなおさらだ
相手の気配を探ろうとしたその時
チリチリとした感覚が首筋に走る
何が迫ってるかを確認もせずにそのままバックステップ
その刹那、両断されたソファーに対し気合一閃居合抜きを当てる
普通の相手ならばこれで終わりの筈
しかしまだ痛む首筋が相手の存在をはっきりと認知させる
崩れるソファーの後ろには何もいない
部屋の中央に自然体で立ち回りの気配を探る・・・がしかしそこにあるのは虚ろな存在感のみ、それもまるで部屋の空間全体に霧と化した奴がいるように感じられる
ちっ・・・しゃぁないか
心で愚痴りつつ気配を察知しようとするのを止める
どうせ攻撃の瞬間、僅かに存在感が浮き彫りになる
それを狙うしかないのだ
だらんと下げていた刀を隙を見せないようにゆっくりと鞘に収める
神速の抜刀
これが今の自分の最高の技
並みの術だと、この戦闘では隙を作るだけだ
まぁ、自分のように格闘術を優先して覚えた人間には、まず間違いなく集中力が霧散するという結果になるだろう
それはこの相手にとって『死』を意味する
チリン
音、あまりにも小さいがその音は聞こえた
右足で一歩右方向に踏み込む
そして腰の回転を使い刀を抜く
あまりに簡単な動作
しかし簡単であるからこそ、居合抜きは難しくそして自分にあっているとも思う
刹那の瞬きに、最大の力を振り絞る。これがいい
生きる為に覚えた
今でも毎朝の修練を欠かした事はない
だがしかし・・・
斬れたのはただ虚空のみ
目を見張る
確かに音がした、しかしそこにはなにも・・・いやあった。ナイフが落ちている
罠
その一言が脳裏に浮かんだ時には既に遅かった
首筋が燃える様に熱くなる
背後に小さな存在感が浮かぶ
避けられへん
どこに飛んでも障害物はなく追い討ちされる
それ以前にこの体勢では左に飛びのく事しか出来ない
左になど逃げれば格好の追い討ちの的だ
『死』
この一言が浮かぶ
その時、今まで何もなかったはずの前方に強烈な存在感が突如浮かぶ
それを確認する間もなく
「なぁにやってんだおめえらはぁぁぁぁぁぁあ!!!」
炎の属性を纏った強烈なアッパーカット
それも右半身を前に出し、深く深く沈みこむタイプ
上方に吹き飛ぶ
薄れゆく意識の中で今まで居た場所に銀線が浮かぶのが見える
『死』の感覚が一気に消える
「お前もなにしてんだぁぁぁあ!!!」
それが最後に聞いた声だった
「っていうか痛いじゃないかっ!?」
先程まで死闘を繰り広げていた相手が俺の横に鎮座している
どうやってあれだけの動きをしていたのだろう?と思われる出で立ちである
なんと黒のコートを着たまま戦っていたのだから、なんとも勝てる気がしなかったのも当たり前の話である
しかし、先程自分に『死の予感』までさせた相手の目元には涙が浮かんでいる
俺とヤツの前にはある男が一人
ニコニコと笑いながら、額に血管が浮かんでいるのが愛嬌と思えれば、座っている事も無いがさすがにそこまで愚かではない
その男がゆっくりと口を開く
首元がちりちり痛む
「弁償お前らの実費な?」
『死』
「・・・あの、ボク収入ないんですけど?」
横にいる彼女はついさっき―戦っている時の顔など見れないので予想でしかないが―まで涼しい顔をしていたのに、今はしきりに額の汗を拭いてる
「あのー、俺も収入ないんやけど?」
まるで自分の声ではないと思えるほど、震えている
「じゃ、明日から今まで使ってなかった喫茶店でも開けれ」
にっこにこしたままだ・・・逆らうと、怖い
「ついでだしブラザー全員使っていいぞ、俺が調理師免許持ってるから問題ねーしな」
まさしく今考え直させようと「調理の免許が」と言おうとした矢先を挫かれる
「月夜コック。夏乃歌ウェイトレスな」
隣にいる夏乃歌の顔が安堵の表情を浮かべる
恐らくその程度の事ならなんとかなると思ったのであろう
しかし前に立つ人物の発言はこれだけではなかった
「あ、夏乃歌かわいーメイド姿以外不許可、黒な」
ビシッ!
瞬間で凍り、そしてヒビが入った
「月夜、年中無休な」
パリンッ!
瞬間で凍り、そしてヒビが入り、割れた
「交誼ウケツケマセン、アシカラズ」
間違えた外国人のような発音でそれだけ言うと、手をヒラヒラさせながら階段を上る
後に残された俺達は生きた死体と化し、ルナに声をかけられるまでどれだけの時間が経ったかわからないほどであった
二人して『夢か』と思い込もうとしたその時
「なんかパパが一階のサテン掃除しろって言ってたよー?」
――1週間後――
その日の朝刊の折込チラシから抜粋
『本格紅茶店・Happiness of the moon開店』
首筋に殺気を感じ咄嗟に背後に飛びのく
先ほどいた場所の椅子が音もなく崩れる
安心する間もなく頭上から小さな音が落ちてくる
先程の要領で次は左に飛ぶ
ただし、飛びながら今居た場所を右一本で刀を通過させながらだ
チッ
何かが掠る感触
しかし存外に硬い
ナイフか・・・そう心に思いつつソファーの後ろに身を潜める
この状況下では息を崩す事は命取りになるだろう
ましてや相手が自分よりも数段上の実力を持っているならばなおさらだ
相手の気配を探ろうとしたその時
チリチリとした感覚が首筋に走る
何が迫ってるかを確認もせずにそのままバックステップ
その刹那、両断されたソファーに対し気合一閃居合抜きを当てる
普通の相手ならばこれで終わりの筈
しかしまだ痛む首筋が相手の存在をはっきりと認知させる
崩れるソファーの後ろには何もいない
部屋の中央に自然体で立ち回りの気配を探る・・・がしかしそこにあるのは虚ろな存在感のみ、それもまるで部屋の空間全体に霧と化した奴がいるように感じられる
ちっ・・・しゃぁないか
心で愚痴りつつ気配を察知しようとするのを止める
どうせ攻撃の瞬間、僅かに存在感が浮き彫りになる
それを狙うしかないのだ
だらんと下げていた刀を隙を見せないようにゆっくりと鞘に収める
神速の抜刀
これが今の自分の最高の技
並みの術だと、この戦闘では隙を作るだけだ
まぁ、自分のように格闘術を優先して覚えた人間には、まず間違いなく集中力が霧散するという結果になるだろう
それはこの相手にとって『死』を意味する
チリン
音、あまりにも小さいがその音は聞こえた
右足で一歩右方向に踏み込む
そして腰の回転を使い刀を抜く
あまりに簡単な動作
しかし簡単であるからこそ、居合抜きは難しくそして自分にあっているとも思う
刹那の瞬きに、最大の力を振り絞る。これがいい
生きる為に覚えた
今でも毎朝の修練を欠かした事はない
だがしかし・・・
斬れたのはただ虚空のみ
目を見張る
確かに音がした、しかしそこにはなにも・・・いやあった。ナイフが落ちている
罠
その一言が脳裏に浮かんだ時には既に遅かった
首筋が燃える様に熱くなる
背後に小さな存在感が浮かぶ
避けられへん
どこに飛んでも障害物はなく追い討ちされる
それ以前にこの体勢では左に飛びのく事しか出来ない
左になど逃げれば格好の追い討ちの的だ
『死』
この一言が浮かぶ
その時、今まで何もなかったはずの前方に強烈な存在感が突如浮かぶ
それを確認する間もなく
「なぁにやってんだおめえらはぁぁぁぁぁぁあ!!!」
炎の属性を纏った強烈なアッパーカット
それも右半身を前に出し、深く深く沈みこむタイプ
上方に吹き飛ぶ
薄れゆく意識の中で今まで居た場所に銀線が浮かぶのが見える
『死』の感覚が一気に消える
「お前もなにしてんだぁぁぁあ!!!」
それが最後に聞いた声だった
「っていうか痛いじゃないかっ!?」
先程まで死闘を繰り広げていた相手が俺の横に鎮座している
どうやってあれだけの動きをしていたのだろう?と思われる出で立ちである
なんと黒のコートを着たまま戦っていたのだから、なんとも勝てる気がしなかったのも当たり前の話である
しかし、先程自分に『死の予感』までさせた相手の目元には涙が浮かんでいる
俺とヤツの前にはある男が一人
ニコニコと笑いながら、額に血管が浮かんでいるのが愛嬌と思えれば、座っている事も無いがさすがにそこまで愚かではない
その男がゆっくりと口を開く
首元がちりちり痛む
「弁償お前らの実費な?」
『死』
「・・・あの、ボク収入ないんですけど?」
横にいる彼女はついさっき―戦っている時の顔など見れないので予想でしかないが―まで涼しい顔をしていたのに、今はしきりに額の汗を拭いてる
「あのー、俺も収入ないんやけど?」
まるで自分の声ではないと思えるほど、震えている
「じゃ、明日から今まで使ってなかった喫茶店でも開けれ」
にっこにこしたままだ・・・逆らうと、怖い
「ついでだしブラザー全員使っていいぞ、俺が調理師免許持ってるから問題ねーしな」
まさしく今考え直させようと「調理の免許が」と言おうとした矢先を挫かれる
「月夜コック。夏乃歌ウェイトレスな」
隣にいる夏乃歌の顔が安堵の表情を浮かべる
恐らくその程度の事ならなんとかなると思ったのであろう
しかし前に立つ人物の発言はこれだけではなかった
「あ、夏乃歌かわいーメイド姿以外不許可、黒な」
ビシッ!
瞬間で凍り、そしてヒビが入った
「月夜、年中無休な」
パリンッ!
瞬間で凍り、そしてヒビが入り、割れた
「交誼ウケツケマセン、アシカラズ」
間違えた外国人のような発音でそれだけ言うと、手をヒラヒラさせながら階段を上る
後に残された俺達は生きた死体と化し、ルナに声をかけられるまでどれだけの時間が経ったかわからないほどであった
二人して『夢か』と思い込もうとしたその時
「なんかパパが一階のサテン掃除しろって言ってたよー?」
――1週間後――
その日の朝刊の折込チラシから抜粋
『本格紅茶店・Happiness of the moon開店』
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